連載

【コロナが変えた世界】 コロナが変えた「若い世代」の消費行動

ポイント

  • コロナウイルスの拡大が「世帯」の消費行動に与えた影響について整理することを試みる。
  • 2020年の家計は防衛的であった。しかし、食費や、水道光熱費、家具家事用品、自動車関連費用などは増加している。更に食事に関しては世帯の「所得」の影響を強く受けやすいが、「年齢」や「世代」がポイントであったようだ。
  • これらから、若い世代や「働き盛り」世代を中心に、「食事作りそのもの」や「家事そのもの」に価値を見出す「新しいライフスタイル」に移行しつつある可能性があると言える。

マニアックな「家計調査」

新型コロナウイルスの感染拡大は、緊急事態宣言の発出に象徴される様に、さまざまな形で私たちの生活に影響を与えています。

コロナ禍により消費が抑制されることは勿論ですが、この統計を見ることで、人々の「ライフスタイル」がどの様に変わってきているのか、その詳細をのぞいてみたいと思います。

家計調査は「マニアック」な統計です。

何が「マニアック」かというと、家計調査統計を作成するには、「超」がつく細かさで家計簿をつける必要があります。

例えば、肉を買ったのであれば、牛か鳥か豚か「何肉」を「何グラム」買ったのか、など、全ての支出と収入を事細かに記録する必要があります。

因みに、魚介類も同様で、まぐろ、いわしなど種類が多いので大変です。魚も重さも測る必要があります。

家計調査とは

総務省統計局が毎月実施している統計調査。国民生活における家計収支の実態を把握し、景気動向の重要な要素である個人消費の動向など、国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的としています。

今このレポートを書いている時点で公表されている品目別統計(2017年から19年平均)によれば、全国で最も肉類を食べる都市は滋賀県大津市(年間11万円以上)で、魚介類日本一は青森県青森市(年間9万円以上)となっています。

さらに、まぐろ、かつおなどの品目別に、全国都市別順位が示されています。

因みに、酒量日本一は秋田県秋田市だそうです。

これらの結果はテレビのご当地クイズ番組に大きく貢献していることは疑いのないところですが、この統計のマニアックぶりが解ろうというものです。

この統計は全国から8000程度の「二人以上の世帯」と700程度の「単身の世帯」によるサンプル調査です。

ご覧の通りの細かさですので、よほど几帳面(きちょうめん)な方しか対応出来ないのではないか、サンプルに偏りがあるのではないかと心配になります。

欧米ではプライバシーの観点もあり、ここまで詳細な家計行動に関する統計があるのは、世界広しといえども、まじめな国民性を有する日本だけではないでしょうか。(他国統計であれば教えていただきたいです。)

家計調査が示す2020年

サンプル調査という限界はあるにせよ、2020年の家計調査は全体としても、「コロナ禍での家計行動」という観点から見て、明確なポイントがあります。

先ず、「防御的」であったことです。

給与所得者世帯のモデルとして「二人以上の勤労者世帯」についてみると、実収入から税金や社会保険料を差し引いた可処分所得は月次ベースで498,639円(前年比+21,994円)と増加しているにも関わらず、支出は305,811円(同▲18,042円)と抑制し、預貯金等を192,828円(同+40,036円)増やしています。

ざっくり言って、月次の手取りで増えた2万円に加えて消費を2万円抑えて、その4万円を預貯金等に回して将来への不安に対して備えた形となっています。

収入の増加には、すったもんだした政府からの給付金も含まれていますが、消費に回らず貯蓄されたと言えるでしょう。

この様に、消費を抑制し貯蓄を増やす行動は、コロナ禍において世界的に指摘されている行動の変化ですが、その中身をみると、日本の家計は「全面的」に防御の姿勢に回ったわけではありません。

その様子が、この統計では見えてきます。

家計調査では消費支出を10個の大きな分類に分けていますが、この内、増加したものが4つあります。

食料、光熱・水道、家具・家事用品、交通・通信(特に自動車等関係費)です。
ここには明らかに、コロナ禍に対応するストーリーが垣間見えます。

仕事はリモートで、外食をせず、家にいることが多くなる。自然と自宅の光熱費が増加する。

家にいる時間が長くなると、「家庭内環境」を良くしたいと感じるようになる。
例えば、空気清浄機などの家財道具を買う。

これまで、家事をしなかった旦那さんも家にいる時間が長くなる。慣れない家事もやってみる。家事に使う道具もついつい買ってしまう。

たまの外出には、出来れば公共交通機関を使わない方が良さそうだ。自家用車を使う機会が増える。

海外旅行もやめたし、車を買い替えるかと考えるご家庭も出てくる。

消費支出とは

一般に、生活費、家計費といいます。個人や家族が日常生活をおくるために必要な商品・サービスを購入して支払った現金支出及びカード、商品券(ギフト券)等を使った支出のことで、仕送り金や贈与金等の移転的支出、商品やサービスの購入と一体となって徴収される消費税,自動車取得税等も含まれます。

さらに詳しく

消費支出は下記の項目に分類されています。

  1. 食料(外食も含まれる)
  2. 住居
  3. 光熱・水道
  4. 家具・家事用品
  5. 被服及び履物
  6. 保健医療
  7. 交通通信
  8. 教育
  9. 教養娯楽
  10. その他の消費支出

コロナは「ライフスタイル」を長期的に変えてしまう可能性がある

私が驚いた点をご紹介すると、先ず、全体としてみると、この対象世帯については、食事に使う支出の総額が若干とはいえ増えていると読めることです。

通常、(特に単身でない家計の場合)外食の方がコスト高になると思いますので、この数字をみるまでは、コロナ禍で外食が減る中、食事への支出の総額は若干低下するのではないかと予想していました。

統計上上手く認識出来ていない可能性はありますが、通常の食事に加えて交際費の食費も考慮して計算しています。

通常の外食を我慢し、さらに交際に使う筈だった食費の減少分を考慮しても、それ以上に、家での食事にお金をかけて楽しんだご家庭が多かったと解釈して良いのではないかと考えています。

下のグラフは、二人以上の勤労者世帯について、「家食(家庭で食事)」をした費用の増加分と「外食(含む交際費の食事代)」の減少幅を「逆目盛り」で掲示して比較しやすいようにしたものです。

「家食」の増加額が「外食」の減少額とどの様なバランスになっているかを、世帯の所得別にみてみました。

一番左側が全世帯の平均値、そこから右側が世帯を所得別に10段階にわけて低いグループから高いグループを表示しています。

〔2020年 家食は外食を減らした以上に増加した〕
(月当たり前年差、単位:円)
二人以上の世帯のうち勤労者世帯、
年間収入十分位階級別

(出典:「家計調査結果」(総務省統計局)、計算および作成はSFL)

特に私を驚かせたのは、上のグラフでも見て取れるように、この傾向は多くの所得レベルの世帯に概ね一様にみられたということです。

食事に使うお金は、一般的にはお金がある人ほど増えていく「ライフスタイル支出」とも呼ぶべき項目です((注)より詳細は別のレポート「家計のお金の「使い方」を考える」(1) (2)をご参照ください)。

それにも関わらず、(さすがにグルメが多いと思われる最上位層は大きく伸びているとはいえ)所得のレベルにほぼ関係なく、所得レベルが低い世帯も含めて増えている傾向がみられます。

外食を我慢する以上に家での食事を楽しむことに価値を見出す「新しいライフスタイル」に、程度の差こそあれ多くの家計がシフトしたと考えても良いように思います。

一方、同じ統計を上のグラフで世帯主の「年齢別」にみると、やや様相が異なってきます。

54歳ぐらいまでの若い世代や「働き盛り」世代が、より積極的に家食を楽しんでいる様子がうかがわれます。

これまで、仕事帰りにうちあげをしていた若者や、一杯やって帰っていたおじさん世代は、コロナ禍でそれも思うに任せない状況となり、家での食事に新しい「楽しみ」を見出している様子を思い浮かべると微笑ましい感じもします。

一方、55歳を超える高齢者世帯では、家で食事をする機会が増えたことにより、コストが低下する効果の方が大きいといった構図になっています。

〔2020年 家食は外食を減らした以上に増加した〕
(月当たり前年差、単位:円)

二人以上の世帯のうち勤労者世帯、年齢別

(出典:「家計調査結果」(総務省統計局)、計算および作成はSFL)

次のグラフでは、世帯主の年齢別に、それぞれの世帯が「家庭内用品」を前年と比べてどの程度積極的に購入したかを見てみました。

「家具・家事用品」が大きな分類項目で、その他の3項目はその内数の例になります。

先程の食費に使う統計の結果と同様ですが、特に34歳以下の若い世代から49歳の「働き盛り」世代にかけて積極的に支出しています。

家事をやってみると、いろいろな道具を揃えたくなるのでしょう。若い世代の方が、家事そのものにも興味を示しているのかもしれません。

〔2020年若い世帯が家庭内用品を積極的に購入した〕
(月当たり前年差、単位:円)

(出典:「家計調査結果」(総務省統計局)、計算および作成はSFL)

終わりに:新しいライフスタイルへのきっかけにも

コロナ禍はわたしたちの生活に大きな制約を課すことになりました。そして、生活のあり方は大きな変化を強いられています。

もしかすると、これをきっかけとして、私たちのライフスタイルそのものが変化をする可能性を感じています。

このレポートの冒頭で、現在、消費抑制と貯蓄増加は世界的にみられる傾向であるとお話ししました。

そして、コロナが終息した時点で、より大きな消費が「反発」する力になると期待されています。私もそう思います。

しかしながら、その時の「消費の仕方」はライフスタイルの変化を受けて、コロナ禍の前とは少し違ったものになる可能性があると思います。

これまで見て来たように、所得水準ではなく、年齢・世代が変化のキーになりそうです。

若い世代や「働き盛り」世代を中心に、家での食事を楽しむことはもちろんですが、「食事作りそのもの」や「家事そのもの」に価値を見出す「新しいライフスタイル」に移行しつつある可能性があります。

コロナ禍が何時終息するか予断を許さない状況です。

今回は正面から扱っていませんが、ビデオ会議等を使った在宅ワークなど家庭での「デジタル消費」も含め、今回のコロナ禍が引き起こした社会変化は、例えコロナ禍がおさまった後にも、わたしたちの生活に相当程度定着していくでしょう。

そうした中で、「新しいライフスタイル」に移行した若い世代や「働き盛り」世代は、昔のライフスタイルに完全に戻ることは考えにくい。

外食産業などが長期的な対応を迫られる厳しい側面がある一方で、「新しいライフスタイル」にマッチした新規の需要が立ち上がりつつある明るい面があることがこの統計でも確認されたと思います。

尚、今回参照した「家計調査」が1万に満たないサンプル調査に基づく統計であることは、冒頭に触れました。

全国の世帯数は5000万を超えており(5344 万 8685 世帯(平成 27 年 10 月1日国勢調査))、少ないサンプルからの調査結果となりますので、マクロ経済専門家には必ずしも評判は良くない統計です。

誤解を恐れずに言えば、そもそも、マクロ経済をみる人は、個別の「家計」には興味が薄いということもあります。日本経済全体を見る立場からすると、「家計部門」という一つのセクターとして取り扱うからです。

しかしながら、「政治」や「社会」という観点からすると、例えば、「家計部門」の中で各「世帯」にどの様に所得が分配されているかという「貧富の格差」の問題は極めて重要です。

そして、「家計部門」の中に立ち入り「収入」と「支出」の両面から個別の「世帯」を分析するこの家計調査は、家庭の幸福度や政策立案の観点からは重要な示唆を与える材料となり得ます。

今回見ていただいた様に、人々の生活にあり方について手触り感を与えてくれる「味わい深い」統計であるとあらためて感じました。

  • この記事を書いた人
宮脇 信介

N.Miyawaki

東京大学経済学部を卒業後、日本興業銀行等で金融市場分析や株式・債券の運用業務に従事。米国カリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得後、ブラックロック等外資系運用会社に勤務し、債券運用ならびに債券投資プロダクト開発等を行う。2017年からSasuke Financial Lab㈱ の取締役を務める。尚、2014年に日本フェンシング協会常務理事に就任、2017年より専務理事を務める。協会運営の透明化・ガバナンス強化、企業と連携した副業兼業プロジェクトによる外部人材の活用など、様々な経営課題の解決に取り組む。

〈主な資格〉
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

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