連載

Go To トラベルのコロナ感染者への影響を考える|コロナが変えた世界

ポイント

  • 2020年末の新型コロナウイルス感染者拡大に「Go Toトラベル」キャンペーンが与えた影響を、「東京を除く全国と東京の感染者数の比率」に着目することで確認する。
  • 政府の統計だけではなく、近年の情報技術の進歩により生まれた民間サイドの情報ベースも参照し、今後の「第4波」への示唆を考える。

はじめに

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が、大きな懸念材料となっています。

日本では、今年に入り緊急事態宣言が再発出される中、やや落ち着きを見せているとはいえ、昨年末から本年年初にかけて感染者数が急拡大し「第3波」到来が大きく報道されました。

また、その原因として「Go To トラベル」が影響を与えたのではないかとの声が聞かれる一方、「Go To トラベル」が一時停止された年末年始以降も感染者が拡大したことから、それは「冤罪」だ、との声も聞かれています。

どちらの見方が正しいのでしょうか。

今後の「第4波」への対応を考えるうえでも、整理しておきたい問題です。

本記事では「感染者数」ではなく、「東京を除く全国と東京の感染者数の比率(これを「非東京/東京比率」と呼ぶことにします)」に着目することで、この問題を少しわかり易く整理します。(注1)

また、本記事は政策判断に対する評価や、一部の見方を指示することを目的としていません。あくまでも、問題整理の視点を提供することをねらいとしています。

大きく変動する「非東京/東京比率」

感染者数が大きく増加する中で「非東京/東京比率」はどの様に変化してきたのでしょうか。

先ず、曜日の影響を捨象(しゃしょう)するため、全国、および、その内訳である東京と非東京(除く東京全国)で新たに確認された「感染者数」を7日間の平均(移動平均)でプロットしてみました。

〔大きく増加した「感染者数」〕

(出典:厚生労働省および東京都ホームぺージから計算)
(注)グラフは2021年1月14日計算分まで。特に注記しない限り以下も同様。

上のグラフに「非東京/東京比率」を書き加えてみましょう。

但し、昨年の5月から6月頃には、政策対応と国民の多大な努力により感染者数が大きく抑え込むことが出来ていたため、この比率がちょっとした変動で振れてしまい大きな意味を持たない(例えば、昨年5月23日その日の感染者が東京で2人、非東京で27人など)時期がありましたので、感染者数が絶対的に少ない日(発生ベースで全国で200人を下回る日)を除いて比率を計算し作成したものが次のグラフになります。

〔大きく変動する「非東京/東京」比率(右軸)〕(単位:倍)

(出典:厚生労働省および東京都ホームぺージから計算)

「第3波」の局面でも、「非東京/東京比率」はかなりダイナミックに動いていることが解ります。

昨年の10月半ばから12月半ばの局面では、この「非東京/東京比率」は約1.8倍から4倍強まで急拡大しています。

感染者数の「非東京/東京比率」は何が要因で大きくなるのか

「非東京/東京比率」はどの様な理由から増加するのでしょうか。

感染者数が大きく拡大した「第3波」の状況においては、基本的には2つのパターンが考えられそうです。

①(東京が最も一定人口当たり感染者の比率が高い場合に)東京から地方(非東京)に多くの人が移動することによって、東京から地方(非東京)に感染が拡大するメカニズムが発動する(ここには、地方の旅行者が一旦東京に来て、地方に戻る場合を含みます)

②東京以外の地方(非東京)においてのみ、広く全国的に感染者が多く発生するメカニズムが発動する

この②のケースとして一つ考えられるのは、東京以外の地域で(例えば大阪で)東京以上のペースで感染者が発生し、「東京以外の地域について全般的に」感染者が拡大するケースです。

理論的に考えることは可能ですが、例えば、大阪と神戸(兵庫県)が問題となった様に、ある限定された地域においてこのメカニズムが発動することがあっても、「東京以外の地域についてのみ全般的に」感染者が拡大することは実際には考えづらいと思われます。

従って、①の東京から感染が広がるケースを想定することが現実的でしょう。

さて、それでは、非東京/東京比率が1.8倍から4倍強まで急拡大した背景には、具体的にはどの様な要因が作用したと考えることが合理的でしょうか。

「第3波」にある程度大きな影響を与えた可能性があると考えられる社会的事象は、以下の2つと考えています。

(1)Go To トラベル
(2)Go To イート

このうち「Go To トラベル」は3期に分けられます。

Go To トラベル(第1期)2020年7月22日から9月30日まで

国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の35%を割り引くキャンペーンですが、東京在住者と東京発着の旅行を除外して実施されました。

Go To トラベル(第2期)2020年10月1日から11月30日頃まで

第一期の特典に加えて、「地域共通クーポン」も付与され、実質的には1人1泊あたり2万円、日帰りは1万円の旅行代金を上限として、その50%相当額が割引になるキャンペーンとして実施されました。

また、2020年10月1日以降、当初キャンペーンから除外されていた東京都民と、東京発着の旅行が割引の対象となりました。

Go To トラベル(第3期)2020年12月1日頃から12月27日まで

ところが12月に入ると東京都のコロナ感染者の増勢の懸念が高まり、先ず、東京都在住の高齢者や基礎疾患のある方を中心に「自粛」の要請が国や都から発せられる様になりました。

その後も多くの対応案が示され大きな混乱が生じ、最終的にはこのキャンペーンは段階的に中止追い込まれることとなりました。

この様に見てみると、Go To トラベル(第2期)2020年10月1日から11月30日頃までの期間に、東京に適応された時点で多くの東京在住者が他の地域へ「越境」したと考えられます。

また、東京「発」のみならず、東京「着」も認められましたので、一旦東京へ他地域から「越境」して入って来た(そして、旅行終了後に地元へ戻った)旅行者も多くいたでしょう。

結果的には東京から東京以外の地域(非東京)へ感染者を増やす要因となりそうです。

一方、「Go To イート」では、県境近くに住む人の「越境」があったかもしれませんが、それは全体から見れば限界的で、ほとんどの人が「地元」でこのキャンペーンの恩恵にあずかったことでしょう。

東京から多くの旅行者を地方へ駆り立て、地方から旅行者を呼び込む要因ではなさそうです。

もっとも、「会食」は濃厚接触を生む環境として政府も強調するところですから、おそらく「地域内」での感染者増加に寄与したことが懸念されます。

しかしながら、東京においても「Go To イート」は実施され、実際に多くのレストラン等が盛況となっていましたので、「東京以外の地域についてのみ全般的に」感染者が拡大することは考えにくいと思われます。

以上の議論をまとめると以下の様になります。

〔感染経路に影響を与える要因の整理〕

結論から申し上げると、昨年の10月半ばから12月半ばの局面で「非東京/東京比率」が約1.8倍から4倍強まで急拡大したことの容疑者になり得るのは、昨年10月1日から11月いっぱい実施された「Go To トラベル第2期(東京発着を含む)」だけであると考えられます。

「Go To トラベル第2期(東京発着を含む)」は、昨年の10月1日から11月いっぱい実施されました。

一方、「非東京/東京比率」が急拡大したのは10月半ばから12月半ばの局面でした。

半月程度のタイミングの「ずれ」がありますが、「発症ラグ(感染から発症までのラグ)」や「認知ラグ(発症から検査を経て陽性者としてカウントされ7日間移動平均にフルで効いてくるまでのラグ)」を考えると10日から半月程度の「ずれ」が生じると考えられ、ぴったり符合します。

新型コロナウイルスの潜伏期間は1から14日ですが、感染後5から6日が最も多いとされています。

また、発症してからPCRの検査を申し込み、実際に検査をして結果が出るのは最短で翌日ですが、最近は検査結果が出るまで数日を要するケースも増えています。週末を挟む場合もあります。

さらに、今回の分析では感染者数の推移を7日間の移動平均で計測していますので、感染者が増加を初めてから数日間かけて結果が見えてくることになります。

この様に考えると、今回の分析に用いた結果に反映するまでには最も早くても10日から2週間程度の「ずれ」が生じると考えられます。(注2)

やはり、11月末にピークを打っていた「Go To トラベル(東京発着を含む)」


また、これまでの推論を補強するために、「Go To トラベル(東京発着を含む)」が人の動きに及ぼした影響を数字で確認したいと思います。

幸いなことに、本稿を書いている最中、2月10日に観光庁からGo To トラベル事業の利用実績について発表がありました。

〔Go To トラベル利用実績〕(単位:万人泊)


(出典:観光庁、7/22~12/28チェックアウト分)

やはり、予想された通り、「Go To トラベル」キャンペーンは第2期に最も大きく機能し、第3期には急速に力を失っていました。

しかしながら、疑い深く、「本当に東京から各地へ人が移動したのか」もっと目で見える証拠を求める声もありそうです。

観光庁が公表したデータにはそこまでの詳細はありませんが、近年の情報技術の進歩から、非常に有力な情報があります。

それは、テレビなどで都心部の「人手」の変化示すために用いられているAgoop社の『Papilio(パピリオ)』というサービスです。

スマホ等がやり取りをするGPSデータを認識することで、特定地域の「平均人口」を計測することが出来ます。

「今日の渋谷の人出は先週比でマイナス25%となりました」といったニュースでのアナウンサーのコメントはよく耳にするところでしょう。

同サービスが提供するのは渋谷などの繁華街の情報だけではありません。

同社から無償で提供されているデータから、先ず、空港周辺のデータをみてみましょう。

〔羽田空港国内線ターミナル駅周辺〕

(出典:Agoop社)

予想された通り、羽田空港国内線ターミナル駅の滞在人口は11月末をピークに減少に転じています。

羽田空港を経由した、東京と他の道府県の「越境」をともなう人の出入りは昨年11月末がピークだったと考えられます。

そして、これは羽田空港に特有の動きではありません。

〔大阪空港駅周辺〕

(出典:Agoop社)

〔福岡空港駅周辺〕

(出典:Agoop社)

羽田空港だけでなく、大阪空港、福岡空港周辺も人の流れは昨年11月末をピークとして下落する傾向となりました。

この時期、海外との交通は厳しく管理されており、国際線の影響は限定的です。

また、これらのデータには飛行機を利用する旅客以外の人員もある程度は含まれていますが、数は相対的に限られています。

一方、京都や沖縄など旅行の目的地となる有名観光地も概ね同様の傾向を示しました。

〔京都嵐山周辺〕

(出典:Agoop社)

〔沖縄那覇国際通り周辺〕

(出典:Agoop社)

結論と今後の展望

冒頭に記した様に、このペーパーは政策判断に対する評価や、一部の見方を指示することを目的としていません。

あくまでも、問題整理の視点を提供することをねらいとしています。

結論としては、今回の分析は、「Go To トラベル第2期(東京発着を含む)」によって東京を「越境」して人の流れが強まったことにより、新型コロナウイルスの感染が広がった経路が存在したことを強く示唆するものです。

今回取り扱った情報に基づく限り、多くの事実関係は符合しているように思われます。

昨年10月初にスタートした「Go To トラベル第2期(東京発着を含む)」は、「非東京/東京比率」の拡大を通じて、コロナ感染者の増加に寄与した可能性が高いと考えています。

即ち、昨年11月末をピークとして「Go To トラベル」キャンペーンは期限終了を待たずに影響度が低下する中、「発症ラグ」や「認知ラグ」をともない、昨年の10月半ばから12月半ばの局面でコロナ感染者(陽性確認者)の「非東京/東京比率」を約1.8倍から4倍強まで急拡大させた後、この比率を低下させたと考えられます。

書き加えておくこととしては、感染の具体的なプロセスに踏み込んでいるものではありません。

例えば、東京に地方から来た人が主たる感染経路であるのか、東京から地方に行った人が主たる感染経路であるのかについて議論をしていません。

また、感染が起きる場合には、「接触感染」や「飛沫感染」など、感染を引き起こす具体的なプロセスがあり、「予防」という観点ではこの分析と対応が大切です。(注3)

さらに重要なこととしては、12月に入ってから(数字上は12月中旬以降)年末年始にかけての期間には、「Go To トラベル」キャンペーン以外の何らかの要因が、東京を含め日本の多くの「地域内での感染者数を増加させた」ことを示唆しています。

感染者数に大きな影響を与えたこの「年末年始要因」については、細かく分析を行う必要があります。

今回、後半部で通常の統計では補足できない新たな情報を用いました。

経済状況等の把握にも、この様な新しい情報ベースが活用されることによって、新たな知見が見いだされるのではないでしょうか。

また、感染に関する具体的・ミクロ的な知見も相当程度積み重ねられていると思われ、新しい対応の工夫が提供されることを期待しています。

最後に、まとめとして、今回の見方を集約したグラフを掲示します。

〔Go To トラベル(その内東京発着を含む)がコロナ感染者(陽性確認者)の「非東京/東京比率」に与えた影響〕
(単位:人、倍)

(出典:厚生労働省および東京都ホームぺージから計算)

(注1)「感染者」については、PCR等の検査によって陽性であることを要件とするため、より正しくは「陽性者」あるいは「陽性確認者」と表記すべきですが、わかり易くするために、本稿では「感染者」と表記させていただきます。

(注2)議論としては、「Go To トラベル」キャンペーン中を通して、東京を発着地としない「非東京」地域間の人の移動が「非東京/東京比率」を上昇させる要因として考えることが出来ます。しかしながら、東京を発着地から除外していた「Go To トラベル(第1期)2020年7月22日から9月30日まで」に対応する期間(8月上旬から10月半ば)に「非東京/東京比率」に大きな動きがなかったため明示的な議論をしていません。また、「Go To トラベル(第2期)2020年10月1日から11月30日頃まで」の時期に「地域共通クーポン」発行によって非東京地域間の移動も加速され一定の影響を及ぼした可能性を排除するものではありません。

(注3)感染経路をミクロ的に分析し、それを防ぐ対応を施すことによって、「人の流れの増加」=「感染者増加」の関係性を断ち切ることは可能であると思います。例えば、東京から地方の旅館・ホテルに自家用車で出掛け宿泊しても、誰とも会話や接触がなければ感染は起こり得ないでしょう。それでは地方に十分なお金が落ちないのであれば、その宿泊施設において外出せずとも地元の商店街のお土産物を購入出来たり、地元の食事が外部のレストラン・料亭から注文できたりする「非接触型の購買」を促すなど、工夫の余地が多くあると思います。

  • この記事を書いた人

N.Miyawaki

東京大学経済学部を卒業後、日本興業銀行等で金融市場分析や株式・債券の運用業務に従事。米国カリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得後、ブラックロック等外資系運用会社に勤務し、債券運用ならびに債券投資プロダクト開発等を行う。2017年からSasuke Financial Lab㈱ の取締役を務める。尚、2014年に日本フェンシング協会常務理事に就任、2017年から2021年6月まで専務理事を務める。協会運営の透明化・ガバナンス強化、企業と連携した副業兼業プロジェクトによる外部人材の活用など、様々な経営課題の解決に取り組む。

〈主な資格〉
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

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