就業不能保険

【FP監修】就業不能保険の保障金額の算出方法とその必要性

就業不能保険は、病気やケガで働けなくなった場合に、給与のように毎月、給付金を受け取れる保険です。本記事ではその保障金額をどのように算出するのか、影響する公的制度との関係から解説します。

就業不能保険とは

就業不能保険は、病気やケガで働けなくなった場合に、給与のように毎月、給付金を受け取れる保険です。入院中はもちろん、医師等の指示で自宅療養中でも対象となります。

就業不能保険の保険料は、年齢や性別によって異なり、設定する保険金額と保険期間によっても変動します。

保険期間はおもに55歳、60歳、65歳、70歳までとなっています。

所得補償保険とは

就業不能保険と似たような保障内容を持つ保険が所得補償保険です。就業不能保険は保険会社の商品ですが、所得補償保険は損害保険会社の商品です。

所得補償保険も病気やケガで働けなくなったときに保険金が受け取れます。所得補償保険の保険料は、年齢や職業によって異なり、設定する保険金額によっても変動します。

保険期間は1年や5年で、支給期間は最大2年が一般的です。保険金額は、個人事業主(国民健康保険)が平均所得金額の70%、会社員(健康保険)・公務員(共済組合)が平均所得金額の50%というように上限を設けています。

収入が減少した場合に備えた保険である点で、就業不能保険と所得補償保険は共通しています。ここからは就業不能保険を中心に解説していきます。

就業不能保険の保険金額に影響する「傷病手当金」の基本

就業不能保険は減少した収入を補てんするための保険です。ただ会社員や公務員には健康保険から傷病手当金を受け取ることができますので、保険加入の前に金額を想定しておくと、適切な保険金額を設定しやすくなります。

傷病手当金は、病気やケガで、仕事を連続3日以上休み、十分な給料が支払われない場合に、4日目から最長1年6ヶ月間給付されます。1日当たりの支給額は次の式で求めます。

支給開始日以前12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3

たとえば12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額を27万円とすると、

27万円÷30日×2/3=6,000円

が1日あたりの支給額になります。

標準報酬月額ですが、健康保険・厚生年金保険では、被保険者が受け取る毎月の給料などを区切りのよい幅で区分した標準報酬月額と税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額を設定し、保険料の額や保険給付の額を計算します。
健康保険制度の標準報酬月額は、健康保険では、第1級の58,000円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています。

標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。

標準報酬月額は保険料額表で調べることができますので、知りたい場合は参照してみてください。なお、会社員と公務員の傷病手当金は少し違いがあり、自営業者等が加入する国民健康保険には傷病手当金はありません。

ここまでの内容を簡単にポイントとしてまとめると次のようになります。

<傷病手当金のポイント>
1 傷病手当金の支給期間は、最長1年6ヶ月
2 給与の3分の2
3 自営業者等には傷病手当金がない。

就業不能保険の保険金額に影響する「障害年金」の基本

病気やケガで働けなくなった場合に、公的社会保険から給付されるものとして障害年金があります。障害年金には、障害基礎年金(1級・2級)と障害厚生年金(1級・2級・3級)・障害手当金があります。1級に近づくほど障害程度が重くなります。

要件を満たせば、会社員・公務員は障害基礎年金と障害厚生年金が支給されますが、自営業者等は障害基礎年金のみとなります。

(1) 障害基礎年金

・年金額
1級 780,100円×1.25倍+子の加算額
2級 780,100円+子の加算額
※子の加算額:第1・2子224,500円、第3子以降74,800円
・保険料納付要件
(原則)保険料納付済期間+保険料免除期間が全被保険者期間の2/3以上あること
(特例)初診日のある月の前々月までの1年間で保険料の滞納がないこと
・障害認定日
初診日から1年6ヶ月を経過した日など

(2) 障害厚生年金

・年金額
1級 報酬比例部分×1.25倍+配偶者加給年金額
2級 報酬比例部分+配偶者加給年金額
3級 報酬比例部分
障害手当金 報酬比例部分×2倍
・報酬比例部分
平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの被保険者期間月数
+平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以後の被保険者期間月数
・保険料納付要件
障害基礎年金と同じ

障害年金を受給できる要件には、初診日要件、障害認定日要件、保険料納付要件の3つあります。就業不能保険の保険金額を考える上で重要となるのが、障害認定日要件です。障害認定日要件の翌月から年金が支給されますが、障害認定日は「初診日から1年6ヶ月を経過した日」等を指します(1年6ヶ月以内に受給できる場合もあります)。

ここまでの内容を簡単にポイントとしてまとめると次のようになります。

<障害年金のポイント>
1 障害年金の支給は、1年6ヶ月を経過した日以降
2 障害認定時点の状況によるため、確実な年金額は分からない。
3 自営業者等には障害厚生年金がない。

就業不能保険の保険金額の算出方法

ここまで傷病手当金と障害年金について解説しましたが、いずれも会社員・公務員と自営業者等で社会保障の内容が異なります。そのため、就業不能保険の保険金額を考える場合、会社員・公務員と自営業等で分けて考えなければなりません。

(1) 会社員・公務員

傷病手当金は、標準報酬月額を計算すれば詳しく算出できますが、給与は変動しますので、将来の標準報酬月額を正確に算出することはできません。傷病手当金は「支給開始日以前12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3」で求めますので、現在の給与から1日の平均額を算出し、3分の2した金額を傷病手当金の支給額と考えれば十分でしょう。

また障害年金の等級は分かりません。障害年金の判定時に「子」の年齢要件を満たしているかによっても加算があるかどうかが変わってしまいますので、障害年金の予定額を保険金額に盛り込みすぎると、就業不能になった場合に、保険金額が不足してしまうことも考えられます。ただ障害基礎年金の780,100円と障害厚生年金の報酬比例部分は盛り込んでおくといいでしょう。

このように考えると、会社員・公務員は傷病手当金で収入の3分の2は支給されますので、収入の半分程度を就業不能保険でまかなうことができれば安心でしょう。しかし傷病手当金が支給されるのは最大1年6ヶ月です。1年6ヶ月で仕事復帰できる場合は傷病手当金、1年6ヶ月以上かかる場合は障害年金に頼るとして就業不能保険の保険金額を考えます。

(2) 自営業者等

自営業者等の場合、傷病手当金はありません。また障害年金の等級は、将来のことで確定できませんので、就業不能保険の保険金額の算出時に盛り込むかどうか悩む点は会社員や公務員と同様です。障害状態に該当したときには、障害基礎年金の780,100円を保険金額の算出に盛り込むこととします。

このように考えると、自営業者等の場合、収入の全額か、全額に近い金額を就業不能保険で保障するようにしなければなりません。

会社員・公務員と自営業者等の場合に分けて、就業不能保険の保険金額の考え方を紹介しましたが、実際にケーススタディで具体的な金額を算出していきます。

ケーススタディ

ここからケーススタディで具体的な金額を算出していきますが、あらためて傷病手当金と障害年金についても考えながら、就業不能保険の保険金額を算出してみます。

A)家族3人(夫:会社員、妻:専業主婦、子3歳)
:世帯月収45万円(税込)

夫は会社員ですので、傷病手当金が支給されることを前提とします。月収45万円ですので、傷病手当金は、

45万円×2/3=30万円

支給されるとします。しかし、傷病手当金は1年6ヶ月を経過すると支給されなくなります。1年6ヶ月以内に仕事復帰できればいいですが、長期に働けない状況の場合、障害年金に該当することも考えられます。障害年金は障害基礎年金と障害厚生年金の報酬比例部分を盛り込んでみます。

・障害基礎年金 780,100円
・障害厚生年金
45万円×5.481/1,000×300月=739,935円
・障害年金額
780,100円+739,935円=1,520,035円

障害年金額を年間150万円受け取るとすると、毎月12.5万円の年金額となります。働けなくなった日以降の収入をまとめると次のようになります。

<就業不能保険加入前の収入>

 

この図に従って、A社の就業不能保険で保険料を算出し、保障内容を確認してみましょう。

<A社の就業不能保険>

契約年齢40歳(男性)/保険期間・保険料払込期間60歳満了

支払対象外期間60日/ハーフタイプ

給付金額15万円 毎月の保険料    2,900円
給付金額20万円 毎月の保険料    3,800円
給付金額25万円 毎月の保険料    4,700円
給付金額30万円 毎月の保険料    5,600円

夫を40歳とすると、現在、子が3歳なので、60歳までの保障であれば子が独立するまでの保障を得られます。そのため、保険期間・保険料払込期間を60歳としました。

またオプションでハーフタイプとしました。ハーフタイプは、傷病手当金が支給される最大1年6ヶ月間は保険金額が半分となるオプションです。

なお支払対象外期間は60日と定められています。保険の支払要件を満たしたとしても60日間は支払されません。

A社の場合、給付金額の上限が30万円となっています。給付金額30万円の就業不能保険に加入すると、60日経過後1年6ヶ月までは半分の15万円、1年6ヶ月経過以後は30万円受け取ることができます。これらをまとめると次の図のようになります。

<就業不能保険加入後の収入>

図を見ると、完全に不足額を保険でカバーできるわけではありませんが、収入減少による家計への影響を軽減できることが分かります。1年6ヶ月以後は月2.5万円の不足額となりますが、子や配偶者の加給年金額は考慮していませんので、実際にはカバーできる可能性もあります。また基準としている月収45万円は手取りではありませんので、元々余裕を持って試算していることになります。

注意点としては、この金額は加入時の収入と支出を基にして算出したものであることです。将来、支出額が増えると予測出来る場合には、加入時の収入では不足することも考えられます。ただ就業不能保険には一般的に保険金額の上限額がありますので、不足していても保険で準備できません。そのため、事前に緊急用資金として貯蓄しておくか、妻が働くなどして働けなくなった日以後の収入を補てんする必要があるでしょう。

B)家族3人(夫:自営業者、妻:専業主婦、子3歳)
:世帯月収45万円(税込)

では、「A」と同じ家族構成で、夫が自営業者の場合を考えてみましょう。自営業者の場合、傷病手当金はなく、障害基礎年金のみとなります。

・障害基礎年金 780,100円

障害基礎年金による収入額が、毎月6.5万円です。これを踏まえてまとめると次の図のようになります。

<就業不能保険加入前の収入>

 

自営業者等の場合、有休もありませんので、働けなくなったときの家計への影響はかなり大きくなります。保険ですべてをカバーするのは難しいですが、出来る限り収入減による影響を少なくするために保険を活用します。

この図に従って、R社の就業不能保険で保険料を算出し、保障内容を確認してみましょう。

<R社の就業不能保険>

契約年齢40歳(男性)/保険期間・保険料払込期間60歳満了

支払対象外期間60日/標準タイプ

給付金額15万円 毎月の保険料    4,337円
給付金額20万円 毎月の保険料    5,716円
給付金額25万円 毎月の保険料    7,095円
給付金額30万円 毎月の保険料    8,474円
給付金額35万円 毎月の保険料    9,853円
給付金額40万円 毎月の保険料     11,232円

自営業者等の場合、傷病手当金がありませんので、ハーフタイプではなく標準タイプとしています。支払対象外期間で60日間ありますが、ここは貯蓄の切り崩しでカバーするしかないでしょう。給付金額40万円で加入した場合でまとめると次の図のようになります。

<就業不能保険加入後の収入>

会社員・公務員と比べると保険料は高くなりますが、就業不能保険である程度カバーできることがわかります。

就業不能保険のメリット

収入減に対してのお給料保障

ケガや病気などで働けなくなってしまった時、収入が減少したり途絶えてしまうことがあると思います。

そのような時に就労不能保険に加入していると、毎月お給料保障のように給付金が支給されます。保険加入時の設計により異なりますが、例えば毎月20万円・30万円といったような形で支給されます。

ですので、収入が減少・途絶えてしまった場合でも、就労不能保険に加入していることで、生活費・住宅ローン・教育費などの出費に対してカバーすることが出来、今までと同じ生活水準を維持することが出来ます。

在宅療養のみでも支給されるので長期的なサポートになる

現在は入院期間がどんどん短くなっており、退院後、在宅で通院治療を受けるケースが増えています。

医療保険は入院・手術をしないと給付金の支払いの対象になりませんので、短期的な収入減には備えられますが、長期的な収入減についてはカバーし切れません。

就労不能保険は在宅療養の場合のみでも支払いの対象になりますので、長期的な収入減をカバーしてくれます。

例えばがんにかかった時に、約2分の1の方が、収入減や退職など働き方の変化があるされています。退院後にすぐ仕事復帰することや、今までと同じように仕事をこなすことは難しいですよね。

就労不能保険に加入していた場合、そのような時にも在宅治療を続けながら給付金の支給を受け続けることが出来ます。

就業不能保険のデメリット

軽い疾病・障害状態では支給されない

デメリットに関しては、けがや病気で仕事を退職・休職しないといけない時でも、軽い疾病・障害状態では、給付金の支払いの対象にならない場合が多いということです。

例えば足の骨折、脳梗塞などで短期間働けなくなってしまった時などは、支払いの対象になりません(保険会社によっては短期的な収入減についても、一時金の給付を受けられる保障内容もあります)。

多くの場合は180日以上所定の状態が続いた場合などの、厳しい支払い基準があります。

例えば、人口心臓を装着した場合、がんで180日以上入院した場合など、重い状態にならないと支払いに該当しません。

また、精神疾患に関しては、支払い対象外の保険会社も多いです。うつ病で休職しているというような状態では、支払いの対象になりません。精神疾患の支払い対象となるケースも、180日以上入院した場合・統合失調症になった場合など、かなり重い状態でないと支払いの対象にはなりません。

保険会社によって支払い基準の差が大きい

支払い基準についてですが、保険会社によって条件が一律はなく支払い条件が異なります。

就労不能状態が国の障害年金制度に連動(主に障害年金2級の状態)した支給や、会社の独自基準を設けている場合もあります。

給付金の支払いの継続も、就労不能状態が回復しても続く場合、回復した場合ストップしてしまう等、回復の有無によっても支払い条件が異なります。

支払いまでの免責期間が長い

また就労不能状態になってすぐに支給されるという訳ではなく、免責期間を設けている場合が多いので注意が必要です。

例えば就労不能状態が60日・180日以上継続した場合等、保険会社によってそれぞれ支払い基準が異なります。

就業不能保険の加入がおすすめな人は?

特に自営業者やフリーランスの方は、就労不能保険の加入が必要です。

何故かといいますと、会社員や公務員の方はけがや病気で働けなくなった時、有給休暇消化後、傷病手当金からお給料の3分の2が最長1年6か月間に渡って支給されますが、自営業者やフリーランスの方はこれらの保障がないため、すぐに収入が途絶えてしまうからです。

また、会社員や公務員の方も1年6か月の傷病手当金の支給の後、国の障害年金から障害等級に連動した支給がスタートしますが、これだけですと十分な支給を受けられないため就業不能保険からのカバーが必要です。

就業不能保険は必要か?

子育て世帯の場合、子の誕生と当時に、死亡保険や学資保険に加入する人が多いですが、働けなくなった場合の家計への影響は大きく、就業不能保険の加入も検討すべきことが分かります。働けなくなった場合は短期間であれば貯蓄で対応できますが、長期間の場合は貯蓄だけでは対応が難しく、就業不能保険や所得補償保険に加入していると家計への影響をおさえることができます。

保険料を安定的に支払えるかどうかの判断は必要ですが、収入が減ると借金でカバーしなければならなくなりますので、就業不能保険を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

死亡保険や就業不能保険など万一の時に備えた保険に加入しすぎると、何もなかったときには無駄になってしまうばかりか、保険料の負担は大きくなってしまいます。この記事では、不足額を全額カバーすることを前提に解説しましたが、保険料の負担をおさえつつ、毎月10万円の保障があるだけでも家計への影響をおさえられます。

働けなくなった場合のことが気になる人は、各保険会社に見積もりを依頼してみてはいかがでしょうか。

  • この記事を書いた人

橋下 秀樹

CFP®、宅地建物取引士、証券外務員二種。これまで様々なお金に関する相談を通じ、家計への負担軽減のアドバイスを実施。ファイナンシャルプランナーとして講師も務める。ライフプランニング、住宅ローン、教育資金、退職後の生活資金、保険の見直しなど幅広い分野の執筆活動を行う。

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